玉鉾百首
【玉鉾百首】
一、撞賢木(つきさかき)厳之御魂(いづのみたま)とあめつちに いてり通らす日(ひ)の大御神(おおみかみ)
二、あめつちの極(きわ)み御照(みてら)す高光(たかひか)る 日の大神(おほかみ)のみちは斯(こ)の道
三、高御座(たかみくら)天(あま)つ日嗣(ひつぎ)と日の御子(みこ)の 受け伝へます道は斯(こ)の道
四、天の下青人草(あをひとくさ)のあさよひに 御蔭(みがげ)とよそるみちは斯(こ)道
五、ふたばしら御祖(みおや)の神ぞ玉鉾(たまぼこ)の 世の中の道始めたまへる
六、天の下国はおほけどかむろぎの 生(う)み成(な)しませる大八島ぐに
七、日の神のもとつみくにと御国(みくに)はし 百八十(ももやそ)国の秀国(ほくに)祖国(おやくに)
八、百国(もも)くにの国のまほらは大倭(おおやまと) わが大君(おほきみ)のきこしをす国
九、かしこしや皇御国(すめらみくに)はうまし国 うら安(やす)の国くにの真秀国(まほくに)
十、百八十(ももやそ)と国は有れども日の本(もと)の これの倭(やまと)にます国は有らず
十一、天地(あめつち)のそきへの極(きわみ)覓(ま)ぎぬとも 御国(みくに)に益してよき国有らめや
十二、大穴牟遅(おおなむち)少名御神(すくなみかみ)のよろしくも 造り堅(かた)めし大やしま国
十三、囀(そひづ)るや常世(とこよ)の加羅(から)の八十国は 少名彦那ぞ造らせりけむ
十四、物皆(ものみな)は変り行けども現(あき)つ神 わが大神の御代(みよ)はとこしへ
十五、国々の君は替(か)はれど高光(たかひかる) 吾が日の御子の御代(みよ)は変らず
十六、天照(あまてる)や月日のかげをしる国は 本(もと)つ御国(みくに)に仕へざらめや
十七、諸(もろもろ)のから国人も日の神の 光(ひかり)し得ずばいかにかもせむ
十八、賢(さかし)らに言挙(ことあげ)は為(す)れどから国も ひるめの神の照らす国内(くぬち)ぞ
十九、皇神(すめかみ)の道知らねこそ言(こと)さへぐ から国人はさかしらすなれ
二十、天知るや日の大神の道をおきて 横さの道に惑(まど)ふ世の人
二十一、明(あきら)けき日の大神の道知らぬ からのさかしら聞(きき)こすなゆめ
二十二、外国(とつくに)は神代(かみよ)の伝(つた)なけれこそ 真(まこと)の道を知らず有りけれ
二十三、国々に伝(つたえ)は有れど日の本(もと)に もとのまことの事は伝はる
二十四、上(かみ)つ代のかたちよく見よいそのかみ 古事記(ふることふみ)はまそみの鏡
二十五、真具(まつぶさ)にいかで知らまし古(いにしえ)を 日本書紀(やまとみふみ)の世に無かりせば
二十六、神の代の事らことごと伝へ来て しるせる御書(みふみ)見れば尊し
二十七、まそ鏡見むと思はば漢(から)ことの 塵居(ちりい)くもれり磨(とぎ)てしよけむ
二十八、しるべすと醜(しこ)の物識(ものしり)なかなかに 横さの道に人迷はすも
二十九、さかしらに神代の御書(みふみ)説(と)き枉(ま)げて 漢(から)の意(こころ)になすが悲しさ
三十、漢意(からこころ)なしと思へど書等(ふみら)よむ 人の心はなほぞからなる
三十一、から意(こころ)直し給へと大直日(おおなおび)神のなほびをこひのみまつれ
三十二、伊豆能売(いづのめ)の厳(いつ)の御霊(みたま)を得てし有らば 漢(かん)の枉(まが)れる事覚(さと)りてむ
三十三、久方(ひさかた)の天つ月日の影はみじ からのこゝろの雲し晴れずば
三十四、から書(ふみ)のさ霧(ぎり)鬱頻(いぶせ)ししなとべの 神の息吹(いぶき)の風待つ吾(われ)は
三十五、下濁(したにご)るからふみ川は常滑(とこなめ)の かしこき川ぞ足ふむなゆめ
三十六、肝向(きもむか)ふ心さくじりなかなかに からのをしへぞ人あしくする
三十七、皇国(みくに)はし日の神国(かみくに)とひとくさの こゝろも直し行(おこなひ)も善(よ)し
三十八、漢(から)ざまのさかしら心うつりてぞ 世人(よひと)の心悪(あ)しくなりぬる
三十九、日の本(もと)の大倭(やまと)をおきて外(と)つ国に むかる心は何のこゝろぞ
四十、言挙(ことあげ)せぬ国には有れども枉事(まがごと)の 言挙(ことあげ)言痛(こちたみ)言挙(ことあげ)為(す)吾(わ)は
四十一、禍津日(まがつひ)は世人(よびと)の耳か塞(ふた)ぐらむ 真事(まこと)語れば聞く人のなき
四十二、怪しきはこれの天地(あめつち)諾(うべ)な諾(うべ)な 神代は殊(こと)に怪しかりけむ
四十三、知(しら)ゆべき物ならなくに世の中の 奇(く)しき道理(ことわり)神ならずして
四十四、知ると云ふは誰(たれ)のしれもの測りても 世の神理(ことわり)は底ひ無きもの
四十五、くすはしき神理(ことわり)知らずて漢人(からびと)の 物の道理(ことわり)解くがはかなさ
四十六、怪しきを有らじと云ふは世の中の 怪しき知らぬ痴心(しれこころ)かも
四十七、賢(かしこ)けど人の智(さとり)は限(かぎり)あるを 神代のしわざいかではからん
四十八、人(ひと)皆の物の道理(ことわり)斯(か)に斯(な)くに 思ひ測りて云ふはからごと
四十九、伝(つたへ)なき事は知るべき便(よし)もなし 知らえぬ事は知らずてを有らん
五十、伝(つたへ)はし無くとも似たる類(たぐひ)あらば 外(そと)に准(なぞ)へて知ることも有らん
五十一、世の中のあるおもぶきは何事も 神代の跡(あと)を尋ねて知らゆ
五十二、諸(もろもろ)の成出(なりいづ)るものは神産霊(かみむすび) 高御産巣日(たかみむすび)の神のむすびそ
五十三、あらはにの事は大君かみごとは 大国主(おおくにぬし)のかみのみこゝろ
五十四、目に見えぬ神の心の幽事(かみごと)は 恐(かし)こきものぞおほにな思ひそ
五十五、世の中の吉(よ)きも悪(あ)しきも悉(ことごと)に 神の心のしわざにぞある
五十六、吉事(よきこと)にまがことい継ぎ凶事(まがごと)に よき事いつぐ世の中の道
五十七、世の中は吉事(よごと)凶事(まがごと)行き更(かは)る 中よぞ千々(ちぢ)の事はなりづる
五十八、道理(ことわり)のまゝにもあらずて横さまの 善(よ)きも悪(あ)しきも神の心ぞ
五十九、百(もも)たらず八十禍津日(やそまがつひ)の凶事(まがごと)と 善(よき)を嫌へや善人(よきひと)よくせぬ
六十、善人(よきひと)を世に苦しむる禍津日の 神のこゝろのすべもすべなさ
六十一、天照大御神(あまてらすおおみかみ)すらちはやぶる 神のすさびは恐(かしこ)みましき
六十二、おふけなく人の賎(いや)しき力もて 神のなすわざ争ひ得(え)めや
六十三、あぢきなき何のさかしら霊幸(たまちは)ふ 神(かみ)斎(いつ)かずて疎忽(おおろか)にして
六十四、いざ子達(こども)さかしらせずて霊幸(たまちは)ふ 神のみしわざ助け奉(まつ)ろへ
六十五、弱(おじな)きがまくる思(おも)ひて神と云へど 人に勝(かた)すと云ふが愚(おろか)さ
六十六、神といへば皆等しくや思ふらん 鳥なるもあり虫なるもあり
六十七、いやしけどいかづちこだま狐(きつね)虎(とら) 龍(たつ)のたぐひもかみのかたはし
六十八、釈迦(さか)孔子(くし)も神にし有れば其の道も 広けき神の道のえだみち
六十九、斎(いつ)くべき神等(かみたち)おきて外(と)つ国に 異(け)しき神をらいつくもろ人(ひと)
七十、たなつもの百(もも)の草木(くさき)も天(あま)照らす 日の大神のめぐみ得てこそ
七十一、朝宵(あさよひ)に物(もの)食(く)ふ毎(ごと)に豊宇気(とようけ)の 神のめぐみをおもへ世の人
七十二、天地(あめつち)の神の恵(めぐみ)し無かりせば 一日(ひとひ)一夜(ひとよ)もあり得てましや
七十三、八雲(やくも)立つ出雲の神をいかに思ふ 大国主を人は知らずやも
七十四、いのちつぐ食物(くいもの)衣物(きもの)住む家ら 君のめぐみぞ神のめぐみぞ
七十五、天(あま)照らす神の御民(みたみ)ぞ御民らを 疎略(おおろか)にすなあづかれるひと
七十六、物作る民はみたからつくらずば いかにせんとか民くるしむる
七十七、皇神(すめかみ)のめぐく思ほす人草(ひとくさ)ぞ 世の中の人(ひと)悪(あ)しくすなゆめ
七十八、世世(よよ)の祖(おや)の御蔭(みかげ)忘るな代代(よよ)の祖は 己(おの)が氏神(うじがみ)己が家のかみ
七十九、父母(ちちはは)はわが家(いえ)の神わが神と こゝろつくしていつけ人の子
八十、ぬえ草(くさ)の妻子(めこ)やつこらは皇神(すめかみ)の 授けし宝慈愛(うつく)しみ為(せ)よ
八十一、かも斯(か)くも時の御制度(みのり)に背(そむ)かぬぞ 神のまことの道には有りける
八十二、時々(ときどき)の御制度(みのり)も神の時々(ときどき)の 御命令(みこと)にし有れば如何で違(たが)はむ
八十三、今の世は今のみのりをかしこみて 異(け)しき行(おこない)おこなふなゆめ
八十四、安国(やすくに)の安(やす)らけき世に生(うま)れあひて 安けく有れば物思ひもなし
八十五、刈薦(こもかり)の乱(みだ)れりし状(さま)聞く時し をさまれる代(よ)は尊くありけり
八十六、天皇(すめらぎ)に神の寄(よさ)せる御年(みとし)をし 飽(あ)くまで食べて有るが楽(たぬ)しさ
八十七、事し有れば喜(うれ)し悲しと時々に 動くこゝろぞ人のまごゝろ
八十八、動くこそ人の真心うごかずと 云ひて矜(ほこ)らふ人は岩木(いわき)か
八十九、真心をつゝみ隠して飾(かざ)らひて 偽(いつはり)するはからのならはし
九十、から人のしわざならひて飾らひて 思ふ真心いつはるべしや
九十一、玉極(たまきは)二世(ふたよ)は行かぬ現身(うつしみ)を 如何にせばかも死(いな)ずてあらん
九十二、現身(うつそみ)は為方(すべ)なきものか飽(あ)かなくに 此の世別(わかカれて死(まか)る思へば
九十三、穢国(きたなくに)予美(よみ)の国辺(くにべ)は否(いな)醜目(しこめ) 千代とことはに此の世にもがも
九十四、千早振(ちはやぶる)神の心を和(なご)めずば 八十(やそ)のまがごと何(なに)とのがれむ
九十五、家にも身にも国もけがすな穢(けがれ)はし 神の忌(い)みます忌々(ここ)しき罪を
九十六、竃(かま)の火の汚穢(けがれ)忌々(ここ)しも家内(いえぬち)は 火し穢るれば禍(まが)起るもの
九十七、穢(けがれ)をし罪とも知らに禊(みそ)がずて 黙止(もだ)ある人を見るが鬱悒(いぶせ)さ
九十八、あな恐(かしこ)予母(よも)つ戸喫(へぐい)の禍(まが)よりぞ もろもろの禍起りそめける
九十九、罪しあらば清き川瀬に禊(みそぎ)して 速秋津姫(はやあきつひめ)にはや明(あき)らめよ
百、凶事(まがごと)を禊がせれこそ世を照らす 月日の神は生出(なりい)でませれ
【阿麻理歌】(あまりうた)
百一、かつがつも百ちの歌に憤(いきどお)る 心の緒(お)ろをのばへつるかも
百二、思ふことうたへば和(な)きぬ言霊(ことたま)の 幸(さき)はふ験(しる)し正(まさ)しかりけり
百三、百歌(ももうた)にとぢめては有れど千歌(ちうた)にも 思ふ心は豈(あに)つきじかも
百四、常(とこ)しへに世をてらします日のみたま 託(つ)けし鏡は伊勢の大神
百五、ひむかしの国ことむけて御剣(みつるぎ)は 熱田の宮に鎮(しずま)りいます
百六、ひさかたの天(あま)つ日嗣(ひつぎ)の御宝(みたから)と 御(み)もと放(はな)たぬ八尺曲玉(やさかまがたま)
百七、瑞垣(みずがき)の宮の大御代(おおみよ)は天地(あめつち)の 神をいはひて国さかえけり
百八、目輝(まかがや)くたからの国を言向(ことむけ)の 神のさとしは尊きろかも
百九、古辞(ふること)を今につばらに伝へ来て 文字も御国(みくに)の一つ御(み)たから
百十、小菅(こすげ)よし蘇我(そが)の馬子(うまこ)は天地(あめつち)の 底辺(そこひ)のうらにあまる罪人(つみびと)
百十一、くなたぶれ馬子が罪も罰(きた)めずて 賢(さかし)ら人(ひと)の為(せ)しは何わざ
百十二、馬子らが草生(む)す屍(かばね)得てしがも 斬りて散(はふ)りて恥みせましを
百十三、わだのそこ沖ついくりに交(まじ)りけん 君の守護(まもり)の剣(つるぎ)太刀(たち)はや
百十四、鎌倉の平(たいら)の朝臣(あそ)が逆(さか)わざを うべ大君の謀(はか)らせりける
百十五、隠岐(おき)の島弓矢囲(かく)みていでましゝ 御心おもへば涙し流る
百十六、思ほさぬ隠岐のいでまし聞く時は 賎(いず)の男(お)われも髪(かみ)逆立(さかだつ)を
百十七、鎌倉の平(たいら)の子等が狂事(たわごと)は 蘇我の馬子に罪おとらめや
百十八、大君を悩め奉りし多夫礼(たふれ)らが 民はぐゝみて世を欺(あざむ)きし
百十九、禍津日の其の禍わざに世の人も あひまじこりし時の悲しさ
百二十、よき人と云ふは誰(た)がこと鎌倉の 平(たいら)の子等(こら)が国のつみびと
百二十一、負気(おふけ)なく御国(みくに)責めむともろこしの 戎(から)の王(こきし)が狂(たわ)わざしける
百二十二、かしこきや皇御軍(すめらみくに)に射向(いむか)ひて なやめ奉りしたぶれ足利(あしかが)
百二十三、如何なるや神の荒びぞ真木(まき)の立つ 荒山中(あらやまなか)に君が御世(みよ)へし
百二十四、から国に媚(こ)びて仕(つか)へて足利の 醜(しこ)のしこ臣(おみ)御国(みくに)けがしつ
百二十五、天の下常夜(とこよ)行く如(な)す足利の 末(すえ)の乱(みだれ)のみだれ世ゆゝし
百二十六、何時(いつ)までか光(ひかり)隠(かく)らん久堅(ひさかた)の 天(あめ)の岩門(いわと)はたゞしばしこそ
百二十七、倭文機(しづはた)を織田の命(みこと)は朝廷(みかど)べを はらひ鎮めて績(いそ)しき大臣(おおきみ)
百二十八、非服従(まつろ)はぬ国らことごとまつろへて 朝廷(みかど)清(きよ)めし豊国(とよくに)の神
百二十九、豊国の神の御威稜(みいづ)はもろこしの 戎(から)の王(こきし)も懼(お)ぢ惑(まど)ふまで
百三十、東照(あずまてる)みかみ尊し天皇(すめらぎ)を いつきまつらす御(み)いさを見れば
百三十一、安(やす)御代(みよ)と君の大御代(おおみよ)をあづまてる 神の命(みこと)ぞ堅(かた)め給へる
百三十二、あづまてる神のみことの安国(やすくに)と 鎮(いず)めましける御世(みよ)は万代(よろずよ)