中国語の読解入門
1、目的
中国語の漢詩訓釈書をかったら全くよめなかったのをきっかけに、初学者/NOVICE(B1水準)むけの中国語読解学習法をいろいろためしてみる
2、方針
●定評ある資料から最良効果をひきだす学習法、また非効率知識の先取による回り道・しつこい誤解バイアスを避けることをめざした学習法を、自分の特性にあわせて追求する 定評とは一般文献なら「大学の先生がひいた資料」、学術文献なら「信頼できる査読論文・教科書からの引用数」を1次判断基準とする
●教科書/TEXTBOOKなら初期の段階における自分の印象/IMPRESSION・MENTAL IMAGEへの効果(見通しのうまさ・エッセンス抽出・動機づけが素晴らしいといった直観判断や情動効果を得られるかなど)を重視して、つねに中断を考えながら学習をすすめる 論文やその他資料も書誌・要約よりふみこむ本文読解に対して同様にあつかい、全体効果・機会が向上するよう心がける
●ここでの読解学習法の到達目標/GOAL IMAGEは、中国学・聞きとり・会話には設定せず「中日技術翻訳で1次訳の仕事をとれる語学水準に至ること」とした(今語の書面語内容を理解することを最優先とした)
3、実行動
3.1、ガイダンス本文の探索
●三宅(東京外大)『中国語読解教育の特徴と課題について』(言語教育フォーラム2019、参照2024-09-27(PDF180KB直リンク):http://www.tufs.ac.jp/common/fs/ilr/images/2019/20191204teirei_siryo_miyake.pdf)
3.2、辞書選択
いろいろと辞書をとりよせてみてよさそうなものを選んだ
●中国社会科学院『新華字典(双色本)』(12ED、商務印書館2020)
― 現在常見される13000字をあつかい、字形・ピンイン・標点符号の最新規範と、字義・関連詞義・用例を中国語のみの注解でひくつかいやすいミニ字典 ただし詞典でないことから2字以上の詞・詞組・定語の見出しはなく、字義注解にわずかに含まれるのみ また双色版はビニール表紙だが単色版は紙表紙で前者は軽いがもろい 内容の都度の改訂が充実しているので最新版をえらびたい
●香坂順一EP(大東文化大)『現代中国語辞典』(光生館1982)
― 新華字典の注解文と日本語との対応や不足する字・詞の理解につかう 人気の『中日辞典』(小学館)より便利につかえそう 中国語でひく汎用辞書には中国社会科学院『现代汉语词典』(7ED、商務印書館2016、この辞書の古い版のフル注解に逐一の英語訳が追加添付されたYuan他編『The Contemporary Chinese Dictionary』Foreign Language Teaching and Research Press2005は漢英辞典としても便利)があり、日本語対訳の用例が不要なら学習用につかいやすい また古代中国語にとりくむには現在中国語で詞義・出処あわせ調べるため吳澤炎他編『辞源』(修訂版全4冊、商業出版社1979-1983)をやすくみつけるとよいとのこと さらに字の原義(と古代を通じて考えられていたもの)を知るために段玉裁『説文解字注』がいずれほしくなる
●商務印書館&英オクスフォード大『OXFORD ADVANCED LEARNER’S ENGLISH-CHINESE DICTIONARY』(7ED-3RD、2009)
― OALD英英辞典のフル注解におまけで逐一の現在中国語訳が添えてある様式の辞書であり、英英辞典としても、英語詞の中国漢字訳を参照する目的でも、ひろく一般に日中英語の詞彙の意味範囲を知る目的でも、非常に便利につかえる
●戸川他編『全訳 漢辞海 第四版』(三省堂2021)
― 新華字典とあわせて日中漢字の「字形」について、(1)中国最新(2013)通用漢字(簡体字つまり{簡化字、簡化字の指定されない新字形繁体字}の全体)、(2)簡化字に対する新字形繁体字、(3)通用漢字に対する通用異体字の例、(4)日本最新(2010)常用漢字・人名用漢字、(5)日中のその他異体字の例、をそれぞれ簡単に比較するなどおおよそ便利につかえる 中国の現在通用字と日本の現在常用字等の政府発資料は電子版などで別に準備しておきたい また康煕字典字形(含異体字関係)の参照は『康煕字典 検索本』を使わないと結局うまくいかなかった
3.3、ピンイン・標点・通用漢字に関する政府規範のとりよせ
●『汉语拼音方案』(国家批准1958)
●『标点符号用法(GB/T 15834-1995)』(国家標準1995)
●『通用规范汉字表(国发〔2013〕23号)』(政府外発2013)
●『通用规范汉字笔顺规范:2020』(政府外発2021)
3.4、発話音聞きながし環境の整備
●『北京交通广播』(ウエブラジオ、https://m.tingtingfm.com/)
― 北京での普通話発話音(口頭語・書面語誦読とも)の典型を期待してヒアリングマラソン・BGS(背景音)などに利用する スマホアプリなら「FM収音机」「蜻蜓FM」が便利で広播・地方局→地域北京などとえらぶと局がでてくる 音楽ばかりの時間は隣の『北京新闻广播』局も
●『文化纪录片《中国》第三季 第1集:创世 | China S3 | Cultural Documentary | MangoTV』(YOUTUBE50’00”、参照 2023-10-17、https://youtu.be/RzxG-kLdH8U)
― TV番組『纪录片』歴史シリーズ(第1-3季あわせて34話) 各話1H弱で有名演播者によるナレーション文が番組CG内に字幕表示されるので、初学者が漢字をガン見して現在中国漢字音の見聞きマラソンをするのに合う 発音確認のためのピンイン注音の参照はまとめページ『CHINESE VIDEO PINYIN TRANSCRIPTION』やポップアップ辞書(EG.PAOCHAIサイトでの紹介)をつかうなど工夫する
3.5、読解教科書のとりよせと初学者コメント
上記ガイダンスの紹介に載る読解教科書をとりよせて初学者として評価してみた 読解に限れば日本漢字の知識があれば簡体字の表と辞書とをつかって中国語読解中級(~1600詞彙)から語学学習にアプローチできるのではと探ったが、辞書だけでは修飾関係や句式(構文)が読めるようにならない事がわかり読解初級からやるべきと結論付けた 読解初級と語法基礎を済ませば読解中級の文章が1句1句本当によくわかるようになる
●施P(北京語言文化大)他『キイ・フレーズで学ぶ新聞中国語』(2ED、東方書店1998)
― 中国の大学で外国むけ語学教科書をつくってきた先生によるコンパクト書(114P) テーマにそって多くの短い文章が新聞から選ばれ初学者でもおよその意味はつかめて読み進められる 日本語はコラム和訳の一部のみ
●大羽他『商経学生のための読む中国語』(白水社2019、CD付)
― 商社出の語学塾長がかいたコンパクト書(65P) ビジネスやウエブでつかう用語・語法がピンイン注音符号つき漢字正文として見開き文章におとしてあり、ダイアログ・解説例文ともに低速の丁寧な読音によるCDでの音声データがつく 難度は施本と同程度でどちらも初学者にはもう一歩正確なニュアンスが掴めない水準に揃えてある
●三潴正道P(みつま、麗澤大)他『時事中国語の教科書 2020-23年度版』(朝日出版2020-23、CD付)
― 様式・水準は施・大羽本と同程度で範囲が時事全般のもの 20年版以降はCDだけでなくスマホアプリで可変速再生・中断ができ、誦読用のピンイン注音つきテキストをみながら書面語復誦と読音確認をするのに便利 ただし一般中国人のつかう容赦ない読音速度なので元音は超高速で初学ではとても復誦できない また高速読音時の発音は当然丁寧に話すときの発音法と異なるので初学者が最初に音を聞き取るには不利
●杜荣AP(北京大)『汉语中级教程 International Chinese Course』(北京大学出版社1992、ISBN9787301018941(2 vol. set))
― 上の日本出版3教科書のとる様式の模範ともいえる教科書 ピンイン・英語の注記は読解基本の重要語のみで、他はすべて中国語にて2冊組・450P・30講座が系統的にまとめられている 読解学習はこの杜本をゆくゆくの主軸にする目標をたて、他書にてさらに発話音(音声データ・ピンイン・書面語誦読)と現在詞彙と基本語法とを並列で学習するのがいいだろう ただし入手に困難あり
●『汉语听力速成[シリーズ]』(2版、北京語言大学出版~2011、CD別売)
― 発話音の当面のリファレンスをまず何かに定める必要がある 上の東京外大ガイダンスには大学教養課程の中途より本シリーズの「堤高編」に切り替えとあるが、初学者の自習なら「入門編」から発話音を集中マスターする副読本に適している ただし入門編からいきなり難しいので下の『汉语口语速成』等の会話基礎教科書との併読が必要 ひろく一般に文章の正当な読解・鑑賞には誦読のための正しい発音が必要といえる なぜその詞語を選ぶのかの基準・慣例や、発話音リズムに重きをおいて多義句での意味選択や言外の意味・文脈・雰囲気をもたせたり、2字詞や冗長な言い回しの多用など発話音リズムを重視した詞彙・統語の選択が比較的多くの選択肢から決まったりすることを経験を積みながら理解していく このあたり木村『中国語はじめの一歩』*8、朱『文法のはなし』*9によい概説がある
3.6、読解教科書への補助資料
読解初級と、句式含めた語法と、音声データつき基本詞彙とには、上のガイダンスにない語学入門書などを補助的にさがして学習方法の全体的なパスを各自のクセに合う方法で最適化していく工夫が必須だろう ある程度読んでみて継続してつかえそうな参考書セットを選んでみた 他に良書はさまざまに見つかりそうだが読解中級に入るための例としてメモしておいた
●『汉语初级教程 1-4』(北京大学出版社)、『汉语阅读速成・入门编』・『汉语阅读速成・基础编』(北京語言大学出版)は上記教科書のシリーズのうち読解初級むけのもの 長いがすぐ終わる
●語法の特急サマリは『现代汉语八百词 増订本 – 现代汉语语法要点』(40ページ弱で虚詞用法と基本構文のみの概説、商务印书馆1999)が秀逸 まずここをマスターすると一気に句構造と品詞が語法として分別できるようになる 『全訳 漢辞海 第四版 – 付録 – 漢文読解の基礎』(40ページ弱、三省堂2017)では句式(構文)とともに訓読文における漢文用語との対応がわかる 読解中級取組みの前までにこれら水準の語法は習得・理解しておきたい そのあとに中国語で書かれた語法書をさがしていく流れをつくる
●『汉语口语速成・入門篇 上下』(2版、北京語言大学出版2007)は発話速度がおそく復誦にむくので最初の発話音をこれと上の听力入門でしっかりと身につけられる 別売CDはオンライン公開MP3よりデータが多い 詞彙は多いがフィードバックもないので発音練習のためだけに使い、会話の修得としては信頼できる教師をさがして教室で指導を受けるべきだろう
●山下EP(慶大)『中国語の入門』(最新版、白水2016)も発話音・基本詞彙・語法の説明とアレンジが簡潔丁寧で何度もみかえすのによい 発音へのカナ注音は油性ペンで墨塗など一切目に入らない様にしないと間違えた音で読んでしまい有害
●木村英樹EP(東大)『中国語はじめの一歩 新版』(筑摩書房2017)は本文中《発音ノート I – VI》にある韻母声母の調音ガイダンスが特にすばらしい またある程度語法を学ぶとこの書にある語法の話はしみる
3.7、誦読時の発音法と声調の留意点あれこれ
●発話音をあらわすピンインのIPA表記(*1-8)に関して、上の『汉语听力速成』音声データをここでの発話音リファレンス(最初にめざす発話音の模範)として、諸本のIPAを多少自分向けに改変して誦読時にその発話音が再現しやすくなる様に発音法を工夫した また、声調の習得について初学者にとっての不明点に関する気づきをまとめた 初学者むけ発音法についての日本語書は『中国語はじめの一歩』のが大いに参考になるのでまずは読み込み練習してみる 下記のメモはこの書を基礎にふまえた上での発話音リファレンスと自分とに最適化した追加ノウハウととらえる
●字の声調をおぼえるには、音をききながら詞語/EXPRESSION(詞+詞組の全体)・句のなかでその詞のリズム・語気をつかむ方法が暗記効率がよかった 音を聞くだけで考えず反射的に意味があたまに浮かぶように、詞語を見て誦読した後に音を流して同じ音になるように、時間をかける また五言七言唐詩の暗誦は、音韻列の審美に対する一定の規則である平仄配列の決定メカニズム(一般に詩律 – 格律 – 声律のこと 平 – 仄❘などと表記)に支えられてリズム・語気が自然に身につくから、暗誦のとき思いだしやすくうまく音を再現できるようになる
●ここでの発音法ノウハウは、これで会話が通じたという経験ではなく読解や復誦に対する工夫であり、会話法への応用には経験者助言が必須
3.7.1、発音法の留意点
(1)母音(介音・元音・韻尾の組である韻母/FINALをここでは「母音」とまとめた、単母音の数は10、【】内はピンイン注音字母/LETTERの政府外発規範に載るボポモフォ注音符号/SYMBOL)
(1.1)E【ㄜ】[ɤə]
●調音[o]の円唇をといた非円唇奥舌調音[ɤ]の母音後半がリラックスしてシュワ/SCHWAの調音[ə](生産音の例はAGAIN・SOFA)へと音節内推移するときの生産音 調音[ʊə]の生産音を非円唇でめざした近似音とも分析できる 教科書的には[ɤʌ]・[ɤɜ]とも*6 軽声・高速時には短縮音になる
(1.2)U【ㄨ】[u]
●U単独のとき仏語者にめだつように強く円唇を突出したまま奥舌調音[u]から舌を奥に引いて調音[u̙]として[o]を目指すような生産音となりやすい 介音・韻尾部分の中間的なUでは舌を緊張させない 例えば「母」MU3[mu̙ˇ]は聞くままカナ転記すれば大半はモだろう 中国小1教程には「♪嘴巴突出 U是老乌鸦的乌/Uはカラスのお口みたいに唇とがらせて」とあり日本語より強い円唇が必要 対してピンインの単独Oは調音[oə]となり前後半で筋緊張が緩んでいるのが弁音において特徴的となる また「不 BU4」では唇がさらに緩み開いて調音[ʊ]-[o]の生産音にまで近くなる事が目立つ(特に「不客气」)
(1.3)~I(ZI・SI・CIの3音節)[ɿ]
●子音を非円唇のまま延長し加声変調で母音化した生産音(調音[ʊ]の生産音に聴覚上は似る音)
(1.4)~HI(ZHI・SHI・CHI・RIのそり舌4音節)[ʅ]
●非円唇のそり舌調音をそのままフォームを変えずに延長しながら加声変調で母音化した音(調音[y]の生産音から近くも聞こえるが、調音点である上歯茎にむけて反った舌突/TIPうしろのくぼみ/HOLLOW空間でそのままこもり続けさらにすこし調音[e]-[ei]あたりにずれるような生産音である 声母の調音フォームを解いてから[i:]と続ける生産音ではない 対照的に[y]は円唇で舌突の位置は咬舌高(舌端を上下歯で挟む高さ)より下であり、そり舌調音でこもる生産音ではない点に注意)
(1.5)ER【ㄦ】[ɑɚ]
●二・而・耳など、後舌調音[ɑ]による母音後半がㄦ化調音[ɚ]へと音節内推移する音(ㄦ化調音[ɚ]生産音はそり舌歯茎接近調音[ɻ]の子音を延長して加声変調で母音化する) 教科書的には[ʌɚ]・[ɜɚ]とも*6 また、詞尾に「~ㄦ」がついたときは音節内韻母の韻尾部にこのㄦ化調音の生産音を位置させる(EG.[ɑɚ]・[iɚ]・[uɚ]・[yɚ]、平井案*6を改変)
●声母/INITIALがピンインRのときは先頭子音としての始動/INITIATIONをうけて濁音摩擦調音[ʐ]にて生産される音と解釈できる つまりピンインの韻母にあらわれる「~R」と声母「R」とはそり舌調音を共有して生産された異なる発話音である また声母「R」に近い「ZH」は「CH」の無気音として印象づけないと3そり舌声母の音響的な違いが把握できないため、話し分け聞き分けは初学者には非常に難しく弁音できないものとして文脈を追うしかない(EG.RIとZHI、RENとZHEN、RANとZHAN)
●そり舌調音(ㄦ化調音/RETROFLEX ARTICULATION)に関して補足:そり舌調音の生産音ではすべての対象声母・韻母で独特なこもった音に聞こえることが必要条件となる また声母Rにおけるㄦ化調音は摩擦調音[ʐ]と接近調音[ɻ]の合成とかんがえる ここで基準にしている音声データでは、後続音の調音がE[ɤə](EG.熱RE4・惹RE3)や、~I[ʅ](EG.日RI4)の口腔内フォームのときには、舌端うしろの浅いくぼみ/HOLLOWが緩和して(キャットフォード『実践音声学入門-5.4調音:位置-歯・歯茎調音』を参照)、日本語ら音への調音[ɾ](層流をつくる)よりは仏語JE音への調音[ʒ](乱流をつくる)につよく寄るように聞こえる場合が多い 逆に後続音の調音フォームがA[a]・O[oə]・U[u]・Ê[ɛ]のときは調音[ɾ]に寄るように聞こえる傾向がみられるようだ(詳細な法則性は不明で機会でばらつく、個人差がおおきいとは言える)
●よくみかける発音法ノウハウでは「[ʃ]の口腔内フォームのまま有声音をだせば子音Rの発話音になる」とあるが、北京語にない(そり舌調音のこもった生産音でない)調音[ʃ](EG.SHEEP)のフォームからはじめてしまうと、舌突の調音ガイダンスなしにここの音空間を探索してたどりつくのは難しい(ヒス音の発生源位置(調音位置)つまり空隙狭窄位置が調音[ʃ]での硬口蓋広域から調音[ʂ]での舌突まわり局部に移動する) 母語話者などはピンインSHの調音[ʂ]フォームから加声変調するので直接子音Rの発話音になるが、それができない初学者に英語SHの調音[ʃ]を指示しても中国語には2種のSH類似音であるSH[ʂ]とX[ɕ]があり奏効しない そり舌フォームの確認法として、そり舌音ではその子音調音フォームのまま息を吸うと舌突が弁として閉じ子音音がでないことがわかる(EG.英語SHの調音[ʃ]フォームは吸気でも同子音音がでる、ピンインSHの調音[ʂ]ではでない) ピンインXの調音[ɕ]はそり舌調音[ʂ]でなく英語SHの調音[ʃ]でもなく更にスペクトラムを高周波側によせる調音である(横にひろい舌縁/RIMが下歯裏にふれ乱流発生源位置が歯の裏あたりになる)
(1.6)Ê【ㄝ】[ɛ]
●半開前舌調音/HALF-OPEN(CF. 仏語BÊTE) この調音の生産音は短母音でつかわれず複母音であらわれるのみで、ピンインもこの記号を採用しないが、政府批准規範に載るもの
(1.7)複母音・鼻母音
●それぞれのピンイン字母の組み合わせにおいて、調音で弁別できる生産音の個別特性が出る:
AI[ai]、EI[ɛi]、AO[ao]、OU[ou]、IA[ja]、IE[ijɛ]、UA[uwa]、UO[uoə]、ÜE[yɛ]、IAO[jao]、IOU(IU)[ijʊ]、UAI[uwai]、UEI(UI)[uwɜi]、
AN[an]、EN[ɜn]、ANG[ɑŋ]、ENG[ɔŋ]、IAN[ijɛn]、IN[in]、IANG[ijɑŋ]、ING[iɜŋ]、UAN[uˈwan]、UEN(UN)[uɜn]、UANG[uwɑŋ]、UENG[uwɔŋ]、ONG[oŋ]、ÜAN[yan]、ÜN[yn]、IONG[ijuŋ]
●一応の発音目安として、[ɔ]は広いOともいわれるOPEN-O調音(CF.AUDIENCE・SAW)、[ɜ]はシュワの調音[ə]や非円唇奥舌調音[ɤ]に対して[ɛ]や日本語エへの調音[e̞]に寄るような無理に転記すれば合拗音ァへの調音、[ʊ]は筋緊張のゆるんだ狭い調音(CF.BOOK・PULL・FOOT)、でのそれぞれ生産音
●鼻母音ANとANGの後半調音[n]と[ŋ]のちがいは、それぞれの閉鎖を有声の加声変調/PHONATIONで開放した生産音が「な」に近くなるフォームが前者で「(鼻音の)が」に近くなるフォームが後者で、このとき前者調音では舌突を上歯茎裏まで移動して接触閉鎖させる必要があり、日本語話者には聞き取り弁別を含めて重要な割にむずかしい(ほとんどのNが中国語NGの発話音になってしまい聞く話すとも違いを弁別できない) 初心者向け発音練習法としてAN等の発話時にNでは舌端/BLADEを両歯ではさむフォームにて閉鎖調音させる事前トレーニング(咬舌法)があるとのこと
●ピンインÜANの調音[yan]はさらに上の[yæn]-[yɛn]にまでゆれて聞きとられることがおおいが機会・人によるものか法則性がある程度あるのか詳細な傾向はいまのところ不明
(2)先頭子音
●ピンインP・T・K・Q・CH・CではIPA表記での有気[ʰ]調音(勢いよく弾むように閉鎖調音を開放すること、その上で開放後のヒス音による十分なVOT区間~0.1[s]があること、の両立が中国語における有気音の特徴 重ストレスの子音とみなせる)が聞き定められないと、聞く話すともB・D・G・J・ZH・Zとの区別ができない たとえば[t][d]加声変調での音価の分類より、有気調音[ʰ]有無での音価の分類のほうが重要である 発話音の基準とした音声データで聴力問題をやると、素朴にきく[t][d]ともピンインBに、[tʰ][dʰ]はピンインTに対応とわかる よくピンインB・D・G・J・Zの発音は音韻史・学史経緯からも[t][p][k][tɕ][ts]であり濁らないなどとあるが今音を聞けば[d][b][g][dʑ][dz]とでも表記してそれぞれの音響空間範囲が母語や英語に対して偏るとみた方が直截的とわかる(今語「北京」がIPA上ペイチンと読めるのは北京の英語発音も考え今時違和感がつよすぎ 表記法としては[p]=[b]とローカル偏差定義するだけで間違いではないのだが)
●この類の発話音差異は地方や時代・世代によっておおきな分散で分布するが、たとえば現在では、若者を中心に広東省あたりでも仕事・生活ともに普通話(=国語)をつかい、日常生活で広東語(~粤語(えつご))を使わない人が多いとのこと(深センのビジネスパーソン聞き取りより)
●そり舌子音(EG. ZH・CH・SH)と、それに対向する非そり舌子音(EG. Z・C・S)と、これら2グループのうちI・Ü前に代替的に現れる([i][y]の直前には口腔形状の制約からそり舌調音は位置できない)s→ɕ・dz→dʑ化した非そり舌子音(EG. J・Q・X)との調音の区別は、発声時の調音において舌突の位置を咬舌高より上下させてそり舌の条件としての「こもった音」を強調することで模擬できる 初学者のうちは後者のそり舌を解く発音のときには舌突をしっかり下歯に当てると音が決まるようだ
●同様に韻母Üの調音[y]でも初学者には横笛をふく唇のフォームでまずは舌突を咬舌高より下にすると音が決まるようだ この位置が上だと日本語話者は日本語ヤ行の音生産に慣れているため矯正しても中国語音からどんどん離れてくるだろう(EG.月[yɛ]がそのうちユエの音になってくる)
3.7.2、声調の留意点
●会話経験がなくここに挙げた気づきが声調習得の助けになるのかはっきりしないが、初学者として気づいた点を列記する
― 陽平[ˊ]では最低ピッチから最高ピッチまで1ビートで連続状にピッチ上昇させるのではなく階段状に1段ステップアップして2ビートのように大げさに発音すると、上の初学者むけ音声データの復誦時によく適合した(他の声調は1ビートのまま) 連続状の曲線変調で発音すると初学者にとっては陰平[ˉ]や一部軽声[°]との声調の差別化がそのうち怪しくなってきて、かつ記憶にも残らず覚えられない
― 上声[ˇ]ではニュートラルな語気からさらに気を入れることで(~ストレスをかけて)ピッチを下げることで普段より低い音を出す すると音節末に声道がリラックスするとき自然に語気が元にもどってくる(詞語末での上声の末尾ピッチ上昇はこのリラックスにならう)言語学学者の王力は上声の数値表記を低トーン部に重ストレスがあることを重くみて「2114」と提案していた
― 上の『纪录片 – 中国 – S3.1』冒頭ナレーションをギター(12平均律)で歌唱メロディとしてコピーする方法でピッチ抽出(演算的ピッチ抽出結果とは大きくことなる)してみると、この番組に特殊な現象としてではあるが以下の規則がわかった
●誦読時の楽器伴奏はキーBmであり、誦読のトーン対応ピッチもおよそBマイナーペンタトニックスケール音程でならべられる(「実音/PITCH=音程/INTERVAL」の表記にてF#=V, A=VIIb, B=I, D=IIIb, E=IV)
●声調/TONEはピッチ(楽器など単純音で対象音声の高低をなぞったときの主周波数/DOMINANT FREQ.が現在のANSI-S1.1でのピッチ定義)に対する心理指標として、上のそれぞれを1, 2, 3, 4, 5に対応させられる
●以上のトーン表記規則にてビデオナレータの普通話4声調での基本トーンパタンは以下と聞き取れた(-・\・/は曲線変化/CONTOUR、[]は強度・維持区間とも重音/STRESS重区間、()は強度弱に対するフェードインアウト、また声調の平仄論上分類(平坦/LEVELをあらわす高長・低長を「平」、傾側/OBLIQUEをあらわす上昇短・下降短を「仄」、旧音の「入声」も短促として後者に分類)も併記、これらトーン聞き取りは聴者主観・心理スケールでのフィッティング操作におおきく依存すること、またストレスパタンが独立に重畳し変化することにも注意)
(1)陰平[5-] =平(高長)
(2)陽平[1/3] =平(低長)
(3)上声(3)\[1]/(2) =仄 (上昇短)
(4)去声[4]\1 =仄(下降短)
●全声調とも、トーン曲線の振幅・バイアスには小規模な局所変調が多々に生じており、上の心理指標数値に沿って句中のトーンが連続的に並んでいるとは全く言えないのが実際である 分節におけるストレスパタンに影響されて振幅が拡大縮小したりバイアスにより平行移動するもの、前後分節からのにじみ/SMEAR(隣接的漏影響)や、フレーズ・句全体を支配している各々のイントネーションに連れて大略規則的に振幅・バイアスが変化するもの、が 基調よりの逸脱例として比較的目立つ
●上の小規模変調の一部例として、ストレス重部分では陽平は1/[5]まで拡大しうる、ストレス軽部分では陽平は1/[2]まで去声は[2]\1まで縮小しうる、陰平はストレスパタンや前後分節により[5]-から[2]-まで縮小・平行移動しうる、軽声も前後にじみからトーン平行移動先が様々に揺れる
●イントネーション上、文末や読点前の陽平は到達ピッチが不規則にフラットする:1/[2+] から1/[1-](下降傾向トーン)まで様々に揺れる また復文末の大きなイントネーション区切り(ポーズ)では、結末語気として[1]からオクターブ下段の[4]まで全体のトーンが平行移動的に下がりうる
●上声連続時の変調ルール(上声 – 上声とつづく連音節は陽平 – 上声に変調、MD332と略記など)では、つづけて[1]/(3) 4\[1]/(2)となる
●同様に「一」関連の変調ルールとして、たとえば一 – 去声連音節は陰平から陽平-去声に変調し(MD142)トーンは[1]/3 [4]\1となるなど
― これら小規模変調の傾向を、声調トレーニング・朗誦ノウハウとして定型化できれば、会話におけるアクセント規範からはずれた不自然さ(EG.初心者なまり)を改善加勢できるのかもしれない 語気についてのより習得合理的な拡張表記法についても検討が必要だろう
●初学者が声調をマスターするには、聴力とそれにもとづく言語運動能力とをリンクさせともに精度を高めていく模倣部分が最重要なので、まずは選んだ初学者向け誦読音声を言語でなく聞こえたままの音としてすぐに追いかけて口真似し、発話音系統、とくにピッチと強度の微調適合/FINE ADJUSTMENT FOR FITTINGについての「運動発達」・「強化学習」の経験を身体的に積むところから始めて、韻文の読解へとのぞみたい
3.8、機械翻訳エンジン
●『百度(BAIDU)文本翻译』(中日日中変換に対応、https://fanyi.baidu.com/#zh/jp/)
― 固めの書面語なら現在の無料ウエブサービスでは最高品質で長文でも高速(入力には現在10000字制限あり) スマホアプリには「BAIDU TRANSLATE」がありこちらだと中国語語法チェックと修正文提案までしてくれる
●『KAGI TRANSLATE』(244言語対応、https://t4h2.com/2024/11/16/15295/)
3.9、ニュースメディア
●『新浪科技―新浪网』(https://tech.sina.com.cn/)
― 科学技術のほか上位『新浪网』には多分野のニュース・CGMサイトがある
●『HAO123』(https://www.hao123.com/)
― 網羅的に市井の流通情報がとれるアグリゲーションサイト、反応にぶい
3.10、ツールとデータ
●『中国語よめ~る君』(軽量WINソフトウエア、窓の杜ダウンロード:https://forest.watch.impress.co.jp/library/software/chinayomeeru/)
― 日本漢字・簡体字・繁体字の相互変換などに便利 OS付の中国語ピンイン変換とあわせて文字入力につかう
●『CDBurnerXP』(中国語ファイル名に対応したCDROM作成フリーウエア):https://cdburnerxp.se/en/home
― いろいろためしたがフリー版のオーディオCD作成だとこれしかうまくうごかなかった ソースが44KHZ・WAVでなくてもきちんとつくってくれる
●『POT PLAYER』(ビデオ再生フリーウエア):https://potplayer.daum.net/
― 中国語字幕いりビデオファイルが一般の再生ソフトで正しく字幕表示できないとき、唯一正常表示できたもの(画像型式の字幕SUPファイルが正しく割付された) 字幕タイミングを「,:遅く」「.:早く」で微調できるのも便利
●『中国語のピンイン変換ツール』(http://chugokugo-script.net/hatsuon/pinyin-henkan.html)
― 簡体字・繁体字で文章をいれるとピンインルビつき文に変換してくれ、コピペでタグつきHTMLコードを利用できる便利なウエブサービス
●『オンラインで中国語学習 NetChai Media』(https://media.netchai.jp/tool/)
― 同上機能のピンイン変換サービス 字間・改行レイアウトがことなる
●「ブラウザのブックマーク機能でつかえるポップアップ辞書・画面一括ピンイン変換」
― 「中国語文全文をカーソル操作でポップアップ辞書参照する(ピンイン・代表詞義)」:マンダリンスポット(https://mandarinspot.com/bookmark)から「pinyin」ボタンをブックマーク欄にドラッグドロップしてつかう
― 「中国語文全文にピンインでルビをふる」:PaoChai記事「中国語【ウェブ記事読解】用の神ツール!pop-up辞書とピンイン振り(完全無料)」(https://paochai.jp/media/popup-dictionary#i-5)を参照してマンダリンスポット機能を改変する
●「繁体字フォント」
― OSベンダー標準のフォント「dfkai-sb(kaiu.ttf)(アップルならBiauKai)」をインストールする
●「3秒フラッシュバックボタンとA-B繰り返しボタンがあるCD・メディアプレイヤ」
― 手本にする音声データを繰り返し何度も何度も聞くときソフトウエアで完結もいいが結局装置ものでボタン操作しないと効率が悪い 上の機能が条件だとざっと見てTASCAM社『CD-*T2』かLOGITEC社『LCP-PAP*』になる 後者BT版は音凶悪なのでPHONO端子出力をつかうボタン反応も悪いがなんとか使え慣れれば愛機になる
●「映画・番組の字幕データ(.SRTファイル)」:『SubHD』(参照2024-12-01、https://subhd.tv/search/水浒传)で見つかるかも
― 中国ビデオ字幕の文字エンコーディングはGB2312コードなど中国語向けが多いのでエディタでUTF-8コードに変換して読む
3.11、書籍購入
●スマホに「陶宝/TAOBAO」・「ALIPAY」アプリをいれ、簡単にクレカ決済で中国書を輸入できる 決済は陶宝(アリババ社のオンラインショッピングシステム、天猫/TMALLも陶宝のECサイトの1)にスマホショートメール認証などでログインしてから、同社の決済サービスALIPAYで「国際決済」としてVISAがつかえるので、仲介信販会社からの認証を経るなどして注文確定できる 国際小包は商品購入時に「集運」+「海運または空輸」をえらぶと輸出倉庫(山東半島先端だった)にまず集結させるので、ひとまとめ倉庫に着いたら(陶宝アプリ – 我的陶宝 – 跨境物流 – 待集運にて確認できる)簡単な指示どおり同梱して海外便(船便・エアー)の手続き・支払いを別途する(海運10KGで4千円、航空便2KGで1.6千円と安くない)
― さがしてる絶版ものもたいていみつかる(総価格は安くない、日本アマゾン・日本商社ほかでみつかればそちらが便利)
― 売価がやすすぎるものは自家製本・海賊版本・PDFデータ販売の可能性もあり出版社の正版本かどうかを注文前後に問いあわせてキャンセル検討した方がよい
― PCからブラウザ操作で陶宝を利用したネットショッピング(「優若図書専営店」https://youruots.world.tmall.com/shop/view_shop.htm?spm=a1z09.2.0.0.343a2e8dOYp4IWなど)を試すとあれこれの不具合(ALIPAYとVISAの接続が現在おかしい)で大変だったため、すくなくとも業者連絡や決済にはスマホからのサービス利用が現在ととのっている
― サポート依頼や店舗からくる連絡には中国語の覚悟がいるがたいてい通じるし親切な店がおおい 陶宝での買い物はアリババグループの底力をみることができたとえば物流を毎日のように詳細モニターできて(陶宝アプリ – 我的陶宝 – 我的訂単にて)これがたのしい
3.12、歌
中国語で歌を歌ってみたいときの参考に
●テレサテン『君之千言萬語』(CD40枚箱組のうち21枚が普通話中国語(国語)盤、ユニバーサルミュージック香港・台湾2013)
●テレサテンの中国語吹込み曲の全歌詞は台湾のマニアウエブサイトに:君家後院『看我聴我鄧麗君』(参照 2023-07-07、http://www.iteresateng.com/)
3.13、その他の読解学習法紹介
●Imre Galambos『Learning Classical Chinese efficiently』(YOUTUBE4’16”、https://youtu.be/L6x4l3LW3fU)
― 初学者への古代中国語マスターノウハウをケンブリッジ大の教授が伝授するシリーズ(語学基礎を習得する段階では、対象国古代文献の多義解釈問題に触れず、母語原著の有名な物語を近代(C1840以降)中国語翻訳と逐次対照させて読むとよいとのこと 最近の母語原著小説とその中国語翻訳でもうまくいくだろう)
参照
1WELLS&HOUSE(英UCL)『IPA transcription systems for English』(ウエブ記事2001、参照2024-09-17:https://www.phon.ucl.ac.uk/home/wells/ipa-english-uni.htm)
2キャットフォード『実践音声学入門』(2版、大修館2001、対応原著はCATFORD『A PRACTICAL INTRODUCTION TO PHONETICS』(1ED.、OXFORD U.P.1988))
3佐久間P(名大)他『言語学入門』(研究社2004)
4谢『(FSTC資料)』(2023-02-25参照、http://fstc.main.jp/cIPA.htm)
5SHIBLES, W.A.(UPENN)『Chinese Romanization Systems: IPA Transliteration』(1994、PDF2MBへのリンクあり:https://sino-platonic.org/)
6平井勝利『中国語の児化韻母の音価について』(中国語学1969)
7馮蘊澤『中国語音声の記述と音韻論的分析』(博論、関西大学2013、リポジトリにPDF5MBへのリンクあり:https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/records/262)
8木村秀樹『中国語はじめの一歩 新版』(筑摩書房2017)
9朱徳煕『文法のはなし』(光生館1986)
(変更 2024-12-07)
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